2024.02.01 | 労務管理
遅刻に対する減給処分でトラブルを避けるには?減給と賃金カットの違いも解説
従業員の遅刻が常態化してくると、職場全体の雰囲気や生産性に少なからず影響を及ぼします。
「遅刻くらい大したことではない」と捉えられがちですが、他の社員の士気を下げたり、外部との信頼関係にヒビを入れたりと、組織運営上のリスクは決して小さくありません。
企業としては、一定のルールを設け、就業時間の遵守を促すことが必要になりますが、対応を誤ると「不当な処分だ」と従業員とのトラブルに発展する可能性もあるため、法的な理解を持って慎重に対応することが求められます。
今回の記事では、遅刻した社員に対する減給の進め方や、賃金カットとの違いを改めて解説します。遅刻の理由を問わず、減給を適用する際の注意点を押さえることで、職場内のトラブルを最小限に抑えることが可能です。まずは基礎的な知識をしっかり理解しましょう。
懲戒処分「減給」について
「また、遅刻か」。そんなときに行う懲戒処分のひとつに「減給」という考え方があります。遅刻をしてきた社員に対して、遅刻した時間分を賃金カットするのとは別に賃金を減額することです。遅刻に対しての懲戒処分として減給することは可能ですが、トラブルにならないように進めることが大切です。
法的な定義や運用の違いを明確に理解しないと、企業側が不適切な処分をしてしまう可能性もあります。特に、就業規則に「遅刻を繰り返した場合に減給処分を行う」と明記されていないと、トラブルの火種となりかねません。
遅刻の影響について
まずは、業務への影響です。その業務を遂行するにあたって、必要な人数がそろわなければ業務は滞り、生産性は下がります。
次に、社員への心理的影響です。たとえ業務にそれほど影響のない数分の遅刻であっても、定時前に出社している社員はいい気持ちはしません。軽めの遅刻を黙認してしまう傾向もあるようですが、慢性化すると、ほかの社員の士気を下げ組織に悪影響を及ぼします。それに「遅刻してもいい」というマインドが蔓延し、職場全体に遅刻が横行する可能性もあります。
また遅刻は、出社時にだけ起こるものではありません。社内ミーティングや顧客先での打ち合わせなど、守るべき時間は多様にあります。特に後者の場合は、対外的な信頼を損ね、取り返しのつかない事態を招くリスクもはらんでいます。
企業イメージの悪化にもつながることを考えると、遅刻は個人の問題にとどまりません。遅刻が常習化すると、顧客や取引先から「時間にルーズな企業」と見なされることもあり、結果として信用を失い、取引の機会を損失する可能性もあります。
減給処分の適切な進め方
減給とは、労働者の勤怠不良に対する懲戒処分のひとつで、会社が給与から一定額を減額することを指します。減給を科す際は労働基準法に従って行います。
減給額は、労働基準法によって以下の通りに決められています。
•一回の額が、平均賃金の一日分の半額を超えてはならない
•総額が、一賃金支払期における賃金総額の十分の一1を超えてはならない
例えば、月給20万円で、1日の平均賃金が1万円という社員が遅刻したとします。この場合、1回の遅刻で減給できる上限は5,000円(1万円の半額)となり、1ヶ月の間に複数回に及んで遅刻をした場合の減給上限額、2万円(20万円の10分の1)となります。
誤解として、「何度でも減給してよい」と思われることがありますが、実際には繰り返しの処分は労働契約法上、二重処分に該当するリスクがあるため注意が必要です。従業員から不当処分だと訴えられる事例もあり、懲戒処分の内容と回数には法的な妥当性が求められます。
一方賃金カットとは、遅刻や欠勤などで労働者が働いていない時間に関しては、会社には賃金を支払う義務は生じないという「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき賃金を控除することです。
つまり、「遅刻した時間分の賃金を支払わない」という意味で措置をとる場合は「賃金カット」になり、「遅刻を勤怠不良とみなしペナルティを与えたい」という場合は「減給」となります。
両者の違いを理解せずに運用すると、従業員側にとって「不当な減額」として問題視される可能性があります。特に、賃金カットのつもりで処理した内容を就業規則に「減給」と記載していると、法的に不整合が生じることもあるため、用語の使い方には細心の注意が必要です。
ちなみに電車遅延や事故渋滞など、本人の責任によらない理由で遅刻した場合でも、賃金カットおよび減給することは基本的に可能です。
減給を行う場合は、あらかじめ就業規則に明記しておくことが前提です。
また、懲戒として減給するに至るまでには、まずは口頭注意、あるいは始末書を提出させたり、会社側も注意書を用いて書面通知し記録を残すこともポイントになります。その上でも改善が見られない場合に減給という懲戒処分を科すという流れであれば、トラブルにつながりにくくなるでしょう。また、本人に弁明の機会を与えることも忘れてはなりません。
いきなりの減給や、解雇という処分をとれば、トラブルに発展する可能性も高くなりますので、留意しながら進めるようにしましょう。
減給処分を行った実例
遅刻や欠勤があっても給料の減額を行わない管理を続けた結果、一部社員から「適正な管理に変えてほしい」という要望が上がるケースも実際にありました。そこで、日給月給制で遅刻や欠勤の控除をする場合、月平均の労働時間・日数に基づき正確に減額を行い、有給残日数も各自見える化する管理に変更しました。
真面目に勤務している人からすれば、遅刻が多い職場ではモチベーションが下がることも考えられます。遅刻や欠勤に対して賃金カットになるのは、労務管理では当然の考え方です。ただし、欠勤や遅刻早退への控除を行った場合、社員から質問が上がることが予測されます。そこで根拠に基づく回答ができるかどうかが重要で、労務管理上での信頼関係を築くうえでのポイントになってくるでしょう。
特に「なぜこの金額が減額されたのか?」という質問には、法的根拠と会社の就業規則に基づいた明確な説明が求められます。管理部門としては、減給や賃金カットの目的が懲罰ではなく「組織の秩序維持」であることを丁寧に伝えることで、従業員の納得感を得やすくなります。
たとえ小さくても、不満の積み重ねは職場の信頼関係を失っていく要素となるので、注意したいところです。
まとめ:遅刻に対する減給・賃金カットの運用は慎重に
遅刻に対する対応として「減給」や「賃金カット」を検討する場合には、それぞれの意味と法的な位置づけを正しく理解し、適切に区別することが重要です。
賃金カットは「働いていない時間分を支払わない」対応であり、労働者の労働義務と報酬が対価関係にある「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいています。一方、減給は「懲戒処分」として行われるもので、労働基準法に基づく上限や手続き、就業規則の整備が求められます。
また、遅刻が職場全体に与える影響は想像以上に大きく、他の社員のモチベーションを下げる原因となるほか、外部の取引先からの信頼を損ねるリスクにもつながります。したがって、遅刻を許容しない職場の文化づくりは、懲戒処分だけでなく、日頃のマネジメントや社内コミュニケーションのあり方も含めて総合的に考えていくことが求められます。
処分の前段階として、まずは口頭注意や注意文書、始末書の提出など段階的な対応をとり、それでも改善が見られない場合に最終手段として懲戒処分を行う姿勢が、法的にもトラブル防止の観点からも有効です。さらに、減給や賃金カットを実行する際には、本人への説明責任や弁明の機会をしっかりと確保することが、職場の信頼関係を維持するうえで重要なポイントとなります。
企業側としては、「公平で一貫した労務管理」と「感情的にならず冷静に対応する姿勢」のバランスをとることが不可欠です。就業規則の整備や運用、社員への説明体制など、今一度、自社の対応を見直しておくことをおすすめします。
職場環境や企業文化にも直結する内容です。
長期的な組織の健全性を守るためにも、適切な対応と従業員との良好な関係構築を意識した運用を心がけましょう。